伝説の名店ミュンヘン「Schumann’s Bar」訪問記|チャールズ・シューマン氏の美学と至高のジンカクテル

ミュンヘン出張の折、どうしても立ち寄りたかった場所がある。 レジデンツ(ミュンヘン・レジデンツ)のほど近く、ホーフガルテン(王宮庭園)に面した場所にある「Schumann’s Bar Am Hofgarten」。ここは、世界のバーテンダーからリスペクトを集める伝説の男、チャールズ・シューマン氏の本店だ。

今回は、クラフトジンを愛する者として、この伝説的な空間で過ごした忘れられない夜の記録をお届けしたい。

目次

伝説のバーテンダー、チャールズ・シューマン。その圧倒的な「美学」

バー好きであっても、「チャールズ・シューマン」という名前に馴染みがない方もいるかもしれない。しかし、クラフトジンやバーの奥深さに魅了されている読者諸氏には、ぜひここで彼の存在を知っておいていただきたい。彼を知ることは、大人の男としての新しい扉を開くことと同義だからだ。

1941年生まれ、80代半ばを迎える彼は、単なる「カクテルを作る一流の職人」という枠を軽々と超えた、世界のバーカルチャーの象徴である。1982年にミュンヘンで自身のバーをオープンして以来、妥協のないサービスと確固たる哲学で、Schumann’sを世界トップクラスの名店へと押し上げた。彼が執筆した『American Bar』や『シューマンズ バーブック』などの著書は、カクテルの歴史とレシピをまとめ上げた大著として、世界中のバーテンダーの「バイブル」として今もカウンターの奥に置かれている。

さらに特筆すべきは、彼のその圧倒的な佇まいだ。銀髪を撫でつけ、パリッとした白シャツやテーラードジャケットを着こなす渋すぎるルックスから、過去にはヨウジヤマモトやヒューゴ・ボスといった世界的ファッションブランドのモデルも務めている。「完成された大人の男」を絵に描いたような人物なのだ。

彼の思想やバーという空間への情熱に触れるなら、ドキュメンタリー映画『シューマンズ・バー・トーク(Schumann’s Bar Talks)』を観ることを強くおすすめする。彼が世界のトップバーを巡り、酒とバーテンダーの在り方について語るこの映画は、お酒を愛する大人なら必見の映像作品だ。

敬意を示すための「ドレスコード」

日中はレジデンツをTシャツと短パンというラフな格好で観光していた私だが、Schumann’sへ向かう前には一旦ホテルへ戻った。目的はただ一つ、着替えるためだ。

Schumann’sのような格式高いバー、そして何よりシューマン氏が作り上げた文化に触れるにあたり、カジュアルすぎる服装はふさわしくない。展示会などの仕事用に用意していたジャケットとパンツのスタイルに着替え、身を正して入店した。 バーという空間は、客もまたその雰囲気を作る一部になる。名店を訪れる際は、お店への敬意として服装にも気を配るのが大人の嗜みだ。

夕暮れのカウンターと、心温まる交流

夕方のまだ早い時間帯だったこともあり、無事に1Fのメインカウンターに腰を下ろすことができた。コースターには見慣れたSchumann’sのロゴが印字されている。

ふと、隣に座っていた地元の女性2人組から「日本人?」と声をかけられた。
「”Wie sagt man ‘Prost’ auf Japanisch?”(日本語で乾杯ってなんて言うの?)」と聞かれたので、「Kanpai(乾杯)だよ」と教えると、「カンパリみたいだね!」とバーテンダーさんも交えてみんなで笑い合った。名店でありながら、こうした肩肘張らない温かい空気が流れているのがSchumann’sの魅力でもある。

ボタニカルを味わう至高のカクテルたち

1杯目:Schumann’s Negroni

スタートは、何種類かのジンをブレンドしたという「Schumann’s Negroni」。付け合わせのオリーブをつまみながら、複雑に絡み合うハーブとスパイスの苦味を味わう。

ここで少しお腹を満たすため、スタッフおすすめのローストビーフを注文した。サラダとセットになっており、一人前としては予想以上にボリューム満点だが、これがまた酒によく合う。

Schumann's Barのネグローニ
Schumann’s Negroni

2杯目:ロックスタイルで供されたKyoto Gimlet (京都ギムレット)

「ジンベースで何か」とリクエストすると、日本人ならということで「Kyoto Gimlet」を作ってくれた。 ベースは、クラシカルで洗練されたボタニカルが特徴の「No.3 ロンドンドライジン」。そこに柚子の香りとライムコーディアルが合わさる。特筆すべきは、これが氷を入れたロックスタイルで提供されたことだ。ローストビーフというボリュームのある食事と合わせている最中だったため、「氷が溶ける変化を楽しみながら、ゆっくりと食事と一緒に味わってほしい」というバーテンダーの粋な計らいだと理解した。No.3のジュニパーベリーや柑橘系の爽やかさと、和を感じさせる柚子の見事なハーモニーを堪能した。

Schumann's BarでNo.3ジンを使ったロックスタイルの京都ギムレット
京都ギムレット

3杯目:王道のショートカクテルで味わうギムレット

続く3杯目は、通常のギムレットをオーダー。するとバーテンダーから「ロックスタイルとショートカクテル、どちらが良いか?」と尋ねられた。ヨーロッパではロックのギムレットも一般的だという。先ほどロックで楽しんだこともあり、今回は王道のショートスタイルを選択。ノイリープラットとNo.3ジンという洗練された組み合わせが、キリッとした冷たさの中で鮮やかに際立つ。

ここで、お酒のあてにチーズプレート(小)を追加したのだが、これが「小」とは思えないほどのサイズ感だった。チーズをつまみながらギムレットを飲み干すと、なんとバーテンダーがサービスでポートワインを出してくれた。「This is the best with cheese(チーズにはこれが一番合うよ)」と微笑んでおすすめしてくれる心遣いに、至れり尽くせりの幸福感に包まれた。

締め:オリジナルレシピの聖地で味わう「Flying Kangaroo」

Schumann’sにいるからには、どうしても触れておかなければならない一杯がある。締めに選んだ「Flying Kangaroo(フライング・カンガルー)」だ。

なぜこのカクテルなのか。それは、このトロピカルカクテルが、他でもないチャールズ・シューマン氏自身が1979年に考案した彼の代表作(シグネチャー・カクテル)だからだ。ラムとウォッカをベースに、ココナッツ、パイナップル、フレッシュクリームなどが織りなす濃厚で甘美な味わいは、今や世界中のバーのスタンダードとして愛されている。ここはその「本物」に出会える聖地なのだ。

目の前に供されたグラスの横には、シェイカーで作った際に入りきらなかった分が、小さなグラスに入れられ氷で丁寧に冷やされていた。こうした「余り」を無駄にせず、さりげなく寄り添わせてくれる無骨ながらも温かいサービスが、たまらなく粋である。

伝説との対面、そして最高のフィナーレ

心地よく酔いが回ってきた頃、信じられないことが起きた。チャールズ・シューマン氏ご本人がカウンターに現れ、挨拶をしてくれたのだ。現在は直接カウンターに立つことは少ないそうだが、こうしてお客さんとコミュニケーションを取りに出てきてくれるらしい。

往年の名バーテンダーが放つオーラ、迫力、そして威厳。私は拙いドイツ語で、こうして素晴らしいバーを楽しめるのはあなたが文化を作ってくれたおかげだという感謝とリスペクトを伝えた。フライング・カンガルーを美味しくいただいていることも。 すると彼は「たまに日本から僕を訪ねにきてくれる人がいるんだ」と、とても嬉しそうに語ってくれた。

さらに驚くべきことに、なんと彼からサイン入りの『シューマンズ バーブック』をいただいてしまったのだ。力強いサインと「2026」という年号が記されたこの本は、間違いなく我が家の家宝になる。

チャールズ・シューマン氏のサイン入りSchumann's Bar Book
ご本人からいただいたSchumann’s Bar Bookのサイン本

感動に浸っていると、「私から一杯サービスするよ」とおまかせでカクテルをご馳走になってしまった。

想定以上に飲み、極上の時間を過ごした私は、心地よい酔いとともにタクシーでホテルへ帰路についた。 本をいただき、サービスのお酒や手厚いおもてなしを受けた感謝の気持ちとして、チップも相場よりかなり多めの25〜30%ほどお渡しした。圧倒的な大満足の夜だった。

ミュンヘンを訪れる機会があれば、ぜひ少しだけお洒落をして「Schumann’s Bar」のドアを開けてみてほしい。そこには、本物のバーの文化と、温かいおもてなしが待っている。

店舗情報:Schumann’s Bar Am Hofgarten

店名Schumann’s Bar Am Hofgarten
住所Odeonsplatz 6-7, 80539 München, Germany
営業時間月〜金:9:00 – 26:00
日:17:00 – 26:00
定休日土曜日
アクセスUバーン(地下鉄)Odeonsplatz駅から徒歩すぐ
公式サイトhttps://www.schumanns.de/

※営業時間は変更になる可能性があるため、訪問前に公式サイト等で最新情報をご確認ください。

【おすすめ書籍】バーテンダーと酒を愛するすべての人へ
今回シューマン氏ご本人からいただいたのが、こちらの『シューマンズ バーブック』。 単なるレシピ本ではなく、お酒にまつわる基礎知識、バーテンダーとしての心構え、そしてグラスの選び方に至るまで、彼の美学が凝縮された一冊です。
世界中のバーテンダーが「バイブル」として愛読するこの名著。手元に置いてパラパラと捲るだけでも、自宅のグラスにお酒を注ぎたくなる衝動に駆られます。お酒を嗜む大人の本棚に、ぜひ加えておきたい一冊です。

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この記事を書いた人

外資系コンサル出身の管理職。出張先のバーでジンフィズを嗜むのが至福の時間。「デートでワインリストを攻略したい」とワインエキスパート資格を取り、勢いでブルゴーニュを自転車走破。現在はクラフトジン沼に没入し、自宅には常に複数のボトルが並んでいます。ワインの知識を活かしてジンの香りをわかりやすく紐解き、大人の知的好奇心を満たす教養をお届けします。

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